マンハッタンにあるコロンビア大学から公園を隔てたハーレムに引っ越してきて、はや4年が経つ。僕はこのコミュニティーが大好きだ。
何よりも、人がいい。
主にアフリカ系アメリカ人主体のコミュニティーだが、セネガルを初めとした西アフリカからの移民も多く、日曜日になるとキラキラと色鮮やかなアフリカの民族衣装に身を包んだ人々が通りを賑わす。それに比べ、アジア人はまだほとんどいない。
僕は、「行きつけの店」を持つのが好きだ。ここら辺でもたくさんある。
ただ、飲食店とは限らない。
南米系のおばさんが営むクリーニング店、Fredrick Douglasと114丁目にあるアフリカ系移民のたまり場のセネガルの食堂、Manhattanと116丁目のデリ(日本でいうコンビニ)、ドイツ人とセネガル人が共同経営するビールの店Bier International(Fredrick
Douglassと113丁目)、他にも何件かある。
置いている品物も勿論大事だが、たいていは、人の温かさで選ぶ。
お金を払う時や、料理を待つ時の、ちょっとした会話が嬉しい。コミュニティーの良さを感じるひと時だ。
こんな人間関係が、窮地を救ってくれる時もある。
以前、昼食を買いにセネガルの食堂に寄った時にクレジットカードが使えなかったことがある。ランニングの帰りだったために現金も無く、焦った。もう料理は包んでもらっていたし、困ってしまった。
セネガルおばさんの対応はシンプルだった。
「代金は今度でいいわ。」
そんなことが、他の店でも何回かあった。落とした財布がちゃんと自分の手元に戻ってくることで知られる日本でも、こんなことは珍しいんじゃないだろうか。ニューヨークのような世界有数の大都市にして、こんなにも情緒豊かなハーレムは、とてもスペシャルだ。
つい先ほどもこんなことがあった。
昨年に続き、今年も7月中はボストンで勉強する妻の所に、子ども達を連れて行った。高速バスでボストンからNYに着き、すぐタクシーを拾った。
いざカードで支払いをしようとしたら、またしても何らかの理由でカードが使えなかった。運転手さんに頼んで、116丁目のデリまで行ってもらい、ATMで現金をおろすことにした。
カードが使えないのも当然だった。残額が足りなかったのだ。
カードも使えなければ現金も手元になく、タクシーの運転手さんは子ども達と外で待っているという信じられない状態。残された道は一つしかないように思えた。
一か八か、顔見知りのデリのおじさんに、事情を説明してみた。
これこれこういうことで、申し訳ないがお金を貸してくれないだろうか。
イエメン出身のそのおじさんは躊躇せずにこう言った。
“No problem. How much?”
こうして$40彼に借り、無事タクシーの運転手さんに払うことができたのだ。
客が逆に店から金を借りるなんてこと、前代未聞だ。借りておきながら、自分自身、びっくりした。
子ども達をおいて、すぐさま家にあった現金を持っておじさんの所に引き返した。
ついでにビールも買い、「ありがとう」と言って$10手渡そうとした。でもおじさんは頑として受け取らなかった。
そのおじさんの言葉が印象的だった。
“We are Muslims.”
「俺らはイスラム教徒だから。」
アラーの神に感謝したい。
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