『再開の時』で激動の2011年を僕なりに振り返ったが、一つ重要なニュースが抜け落ちていたことにあなたは気付いただろうか?
Occupy Wall Street(OWS: ウォール街占拠運動)だ。
これなしに2011年を語ることはできないと僕は思う。チュニジアに始まった革命の機運は、アラブ諸国に飛び火し、アメリカのウィスコンシン州の人々を勇気づけ、海を渡ってスペイン、ギリシャなどを巡り、9月にはまたアメリカに戻ってきた。Occupy Wall Street(ウォール街占拠運動)として展開されたこの運動は、アメリカ全土、果ては世界中の大都市にまで飛び火した。
2011年の終盤、僕はブログを通してOWSのことを日本に向けて発信することに自らの使命を見出していた。日本におけるOWSの報道があまりにもこちらの現状と異なっていると感じたからだった。どれだけの盛り上がりを見せ、どれだけ優秀な人たちが運動に参加し、どれだけの可能性があるか、一生懸命伝えようとした。
僕がOWSに興味を持ったのは、昨秋から僕がアシスタントを勤めるMaxine Greeneのおかげだった。以前にも紹介したが、今年94歳になった彼女は、根っからのファイターだ。自分の現状はもちろん、社会の現状に決して満足することのないMaxineは、女性、学者、そして一人の教育者として、常に問題を見極め、怒り、闘い続けてきた。
そんなMaxineのアシスタントとして恥ずかしくないよう、僕は彼女の目で世界を見ることから始めた。今では車椅子と付き添い人なしではどこにもいけず、酸素さえも常に鼻のチューブから取り入れているMaxine。でも、彼女がOWSに刺激を受け、うずうずしているのは一目瞭然。僕はZuccotti Park (別名「リバティープラザ」) に行くことにした。
僕自身がOWSにはまっていったのはのはそれからだ。一週間に2度ほど、Maxineに会いに行く度に、僕が実際に見たり聞いたりしたことを彼女に伝えるようになった。二人で新しい展開に心躍らせ、様々なことを議論した。
OWSについて調べる流れの中で、あるサイトに出会った。Econ4.orgというサイトで、そこでは市場原理主義のイデオロギー的、政治的支配に反対する世界中、300人以上の経済学者達がOWSの理念に賛同するという声明文に署名していた。
自分の「経済学者」のイメージを根本から覆された気がした。衝撃を受けると共に、僕は考えた。経済学者ができるのに、教育学者にできないわけがない。市場原理の導入をベースとしたここ数十年のアメリカにおける 「教育改革」 に対抗して、教育学者達をまとめよう。Maxineにそう話したのが、Edu4の始まりだった。 (全て英語で書いたので、見落とした人も多いかもしれないが、実はこのビジョンについては12月5日の “Un/Occupy AERA Part 2” という投稿で既に書いている。そうそう、言うまでもないかもしれないが、Edu4というのはEcon4にちなんだ名前だ。経済学、教育学だけではなく、他の分野にも広がっていくようにとの願いを込めて選んだ。)
今年1月、声明文の作成に本格的に取りかかった。僕が書いたものをMaxineと僕の博士論文のアドバイザーであるJanet Miller教授に見せ、手を加えてもらった。また、このブログで以前にも紹介した、教育法のエキスパートで、Campaign for Fiscal Equity (v. NY)を歴史的勝訴に導いた弁護士でもあるMichael Rebell教授にも編集を手伝ってもらった。
2月、ようやく完成した声明文を持って、Maxineを訪ねた。そして、信じられないことに、そこにはアクティビストとしても著名な教育学者Bill Ayersとその妻、Bernadine Dohrn (有名なアクティビスト兼法律学者) がいた。Maxineと仲が良いのは知っていたが、あのBill Ayersを前に、僕は胸の高まりを隠せずにいられなかった。
少しの間黙っていたが、僕は無礼と知りつつ、正直にこう切り出した。
せっかくのこのチャンスを逃すわけにはいかない。
Maxineと共に書いたものがある。
是非聞いてもらいたい。
少々声が震えたが、読みきった。そして、BillとBernadineが口を合わせるように言った。
I love it!!
そして、僕の意図を見透かしたようにBillがこう付け加えた。
「やろうじゃないか。俺を使ってくれ。」
間もなく、Maxine、Janet Miller、Bill Ayersの署名と、Edu4誕生の背景を説明するメッセージを添えた声明文を、何人かのキーパーソンに送った。Michael Apple, Henry Giroux, Nel Noddings, Bill Ayers, Deborah Meier, Christine Sleeter …。皆、僕が教育学の歴史の教科書で読んだ人たちだ。
反応は僕の想像を遥かに超えていた。一週間そこらで、アメリカだけでなく世界8カ国 (アメリカ、カナダ、スウェーデン、中国、オーストラリア、イギリス、日本、オーストリア) から実に160人もの教育学者たちの署名 が寄せられたのだ。
しかもその署名の充実ぶりには目を見張るものがある。これはJanet Miller、Bill Ayers、特にMaxineの人徳だろう。Maxineはおそらくアメリカで現存する最も有名な教育哲学者だ。教育哲学は多岐にまたがる教育学の軸的な存在でもあり、数え切れないほどの人々がMaxineの影響を受けている。彼女のビジョンを形にしたものにこれだけ多くの人が賛同するのも無理はない。
結局、数人の友の助けだけでは処理しきれなくなり、声明文を拡散するのを止めなくてはならなくなってしまった。
それから何人の人たちがこのEdu4プロジェクトに協力してくれただろう。現在Project Teamの学生約10名に加え、Maxine Greene, Janet Miller, Robbie McClintock, Bill Ayers, Peter Taubmanの5名の教授がアドバイザーとして尽力してくれている。現在は教育におけるアクティビズムのためのソーシャルメディアサイトを立ち上げようとしていて、これにもColumbia Center for New Media Teaching and Learningのエキスパート2名及びAdelphi UniversityのMatt Curinga教授がテクノロジーを担当してくれている。
そして今、僕はカナダのバンクーバーに向かう飛行機の中でこれを書いている。このプロジェクトにおける僕の良きパートナーとなったAndrewと、一年に一度のアメリカ教育学最大の祭典、American Educational Research Association (AERA) に参加するためだ。着いた当日には別の学会、American Association for Advancement of Curriculum Studies (AAACS) で、Edu4の発表もする。ただ、メインの目的は、Edu4に署名してくれた学者達、そして新たな賛同者たちに直接会って議論を深めるためだ。
ニューヨークの家を出る時、妻の琴栄にこう言ってきた。
「人生の大勝負だと思って行って来る。」
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