2013年2月3日日曜日

今だからわかる 〜 ヨネ5 〜



車を運転する米倉が、途中までは先生についてったんすよ、と付け加えた。

「マジで?そりゃたいしたもんだ」と俺は驚いた。

「おまえ冬休み中走ってたのか」と訊くと、「いや、まったく走ってなかったっすね。」とヨネ。ここら辺の正直さが米倉らしくていい。

笑う俺を見て米倉が追い討ちをかけた。

 「努力はいっさいしませんでした。」

こんにゃろう...。

途中、あいつがあまりにもスピードを出すので、おまえどうせスピード違反でしょっちゅう捕まってんだろ、と訊くと、

「え、俺免許とってからまだ一回も捕まったことないっすよ。...まぁ、最初から持ち点は1点しかなかったっすけどね」と返ってきた。

俺はまた笑った。

「持ち点?なんだそれ?おまえな、わりぃけど俺今まで一度も持ち点を気にしたことねぇぞ。俺はゴールド(免許)だしな。」

そう言った後、あれ、反応がないなと思って 運転席の米倉の方を向くと、あいつが今までなかったような尊敬の眼差しで俺を見つめていた。

おいおい...。

米倉のツボはそこだったか...。

そんなことに今まで気付かなかった自分に反省した。

気を取り直して話を聞いてみると、免許を取る以前に既に無免許運転で捕まったことがあったため、最初から1点だっとのこと。

なんだかいろんな意味で米倉らしくて、また大笑いした。





久しぶりに会った米倉は激太りしていた。会った瞬間から太ったなと思ってはいたが、車を出て並んだ瞬間、思わず米倉のおなかを電話帳づかみしてしまった。

聞いたら92kgだという。

そうして体は中学生時代の何倍かに大きくなっていた米倉だったが、人柄は全く変わっていなかった。

人好きで、動物的な嗅覚で相手に合わせ、かといって引けを取ることもなく、どこかユーモラスで、あどけなさまで感じさせる。目上の人に可愛がられるタイプだ。

もちろん、これは目の前の相手次第、というところも大きい。米倉は、相手によっては、全く別人…というか悪人に変身する。

中学生時代、口うるさい中年の女性教員や威圧的な態度で生徒を支配しようとする体育会系の男性教員達にはよく噛み付いていた。その点で、人を見る目にはなかなかたいしたものを持っていると感心する。また、と同じで失うものがなかったため、小さい頃から友人がやらないようなバカなことをたくさんしてきた。自分よりも少し力の強いズル賢いがき大将には、いいように使われ、常に一番とばっちりを食らう損な生き方をしてきた。

「米倉は人で生きていくんだ。」

そう俺に言い続けたのは小関先生だ。今回の帰国中も、飲んだ席で先生は米倉についてこんなことを語っていた。

「ちんぴらでもいい。可愛がられるちんぴらになればいいんだ。」

米倉が、人にはない自分の良さを知り、逞しく生きていく術を身につけること...。

今思えば、小関先生との二人三脚で指導に当たった米倉の中学三年間は、全てこの一つの目標に向かって突き進んだ日々だった。

ただ、米倉は人で生きていく、愛嬌で生きていく、というのはわかっていたし、小関先生の言うことを信じて言われる通りにやってはいたが、実際に米倉がどういう大人になるのか、当時の自分には想像もつかなかった。

「ああ、こうなるのか。」

今回米倉と再会し、小関先生が言っていたことが初めて自分の中でつながった。


米倉は、今になってあの時の先生の言葉がわかるようになった、と僕に言っていた。

それは自分にとっても同じだった。

(続く...)


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2 件のコメント:

  1. 元教え子です。恥ずかしいので匿名で!笑
    (ひどくつたない文章ですいません)

    私は教師をなめてました。中学生で落合信彦の本を読み、馬鹿正直に影響を受けていたからでしょうか。
    大人(上司)なだけの教師をなぜ慕わないといけないのか。糞食らえ!と言ったような感じで、いかにも思春期な中学生だったと思います。スポーツ・ヤンキー系ではないので、もの静かでしたが。

    私が二年生のときの担任は、『触らぬ生徒に祟りなし。』と言ったようなスタンスで接してくる教師で、最後はクラスに対し匙を投げるといった教師でした。三年の時の教師は最悪の一言でした。しかし、反面教師という意味で私の人格形成に影響を与えたこの先生方には感謝しています。こんな大人にはならない。

    そんなひねくれた思春期のアホが、教師として、人として初めて尊敬していたのは、だいゆう先生でした。
    先生に反発している生徒は多かったと思います。
    しかし、だいゆう先生は生徒の反発を受け、それを真っ向から殴り返す、そんな先生だったと私は思います。
    だいゆう先生を見ているのは、日常化した学校の中での非日常をみているようでした。

    御託や理想論を述べたとこで、教師も人間ですし、日々のルーチンワークをこなしているだけでも大変な仕事なのはわかります。
    でも、こんな俺が影響を受けた先生に出会えた事は幸運に思います。
    だいゆう先生、ありがとうございました!(何が言いたいかわからない変な文章ですいません!笑)

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  2. 匿名さん、コメントどうもありがとう。君のコメント読んだだけでどの学年だったかわかるのは不思議なもんだな。良く観察してたね。「生徒の反発を受け、それを真っ向から殴り返す」か。その通りだな。あの頃は勢いだけでやっていた俺に嫌な想いをさせられた生徒もいっぱいいたんだろうと、今でも反省してる。それなのに今回のように温かい言葉をかけてもらうと、ちょっと救われた気になる。

    俺も中学生の時に落合信彦の本を読んだよ。『アメリカよアメリカよ』が最初で、その前に読んだ司馬遼太郎の『竜馬がゆく』とのコンビネーションが俺をアメリカに導いたようなもんだな。

    いつか酒でも飲みながら落合信彦を語りたいもんだな。 大裕daiyu.suzuki[at]gmail.com

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