2011年5月7日土曜日

誰のため、何のための復興なのか? ~日本への警告 4~

(4月30日 アメリカ教育最前線から)

 ここ数回に渡り、ミルトン・フリードマンとその崇拝者たちがクーデターや自然災害などの社会危機に乗じて推し進めてきた市場原理主義的経済改革の恐ろしさを、社会危機のさなかにある母国日本への警告として綴っている。

一つ注意しておきたいのは、私は規制緩和や民営化という概念自体が問題だと言っているのではないということ。ただ、1973年のチリのクーデター、2003年のアメリカによるイラク進出、2004年のスマトラ沖地震、2005年のアメリカ本土を襲ったハリケーン・カトリーナなどで、市場原理主義者たちが経済改革の手法として用いてきた「ショック・ドクトリン」(ナオミ・クラインによる命名)は、国の利益を第一に考えたものであり、その「国」そして「利益」のビジョンの大部分を占めるのは一部の企業とエリートだけであり、それ以外の人々、特に被災者や貧困層などの社会的弱者は必然的に恩恵の外へと追いやられることだ。

現に、1973年のクーデター以降、独裁者ピノチェトに経済アドバイザーとして迎え入れられたフリードマンと彼のシカゴスクールの教え子たちによる経済政策によってチリの経済は活性化したものの、現在チリは南米で最も貧富の差が大きい国の一つになってしまった。

イラクでも間違いなく一番恩恵を受けたのはブッシュ政権から様々な事業を委託された大企業たち。そして、彼らが銃弾の飛び交う危険地帯(レッド・ゾーン)の真ん中に造り上げた安全地帯(グリーン・ゾーン)の利権を買えるのはイラク人以外の外国人とイラク人政治家たちだけだ。ほとんどのイラク人はいつ撃たれてもおかしくない状況で暮らすことを余儀なくされた。

スマトラ沖地震でも同じことだ。津波で壊滅した海岸沿いの無数の漁村が、今では一大ビーチリゾート地になっている。パニックに乗じてそれら全ての土地が、地元の人々との交渉もないまま海外の企業家たちにタダ同然の値で手渡されたのだ。それもその筈、スリランカ政府が復興事業を委託するために立ち上げた外的機関Task Force to Rebuild the Nation (TAFREN)のメンバー10人のうち、5人が観光産業の要人だったのだ。(詳細はTourism Concernレポートを参照のこと。ちなみに、現在ミシガン州で新知事スナイダーにより初の「非常事態宣言」が発令され、町全体が企業の管理下に置かれようとしているBenton Harbor。知事によりそこの非常事態マネージャーに任命された人物は、何年もの間、町の人々の唯一の財産であるビーチラインの公園を一大ゴルフリゾートにするために立ち上げられたNPOの理事を務めてきた人物だ。詳しくはこちら。)

『ショック・ドクトリン』の中で、ナオミ・クラインがスリランカ政府の声明を引用している。

“In a cruel twist of fate, nature has presented Sri Lanka with a unique opportunity, and out of this great tragedy will come a world class tourism destination”

「残酷な運命のいたずらで、自然の力がスリランカにまたとない機会をもたらした。この未曾有の悲劇から世界有数の観光地が生まれることだろう。」

このような地上げ行為はハリケーン・カトリーナが襲ったニューオーリンズでも起こった。一大観光地であるフレンチ・クウォーターのすぐ隣には、幾つもの公団が立ち並んでいて、カトリーナ以前から企業家たちがそれらの土地を狙っていたのだ。カトリーナがそれらの地域に壊滅的なダメージを与えた時、ニューオーリンズ有数の共和党議員がロビーイストたちにこう言った。

“We finally cleaned up public housing in New Orleans. We couldn’t do it, but God did it.”

「とうとうニューオーリンズの公団を片づけることができた。我々はできなかったが、神がやってくれた。」

 復興作業がいつまでたっても進まないために避難したニューオーリンズの多くの人々が戻れない状態が続き、空き家になっている家々は次々と没収されていった。カトリーナから一年が経過した2006年9月には、St. Bernard Parishの4000の家が壊され、一年半後の統計ではニューオーリンズの人口はカトリーナ前の約半分の444,000人に減っていた。明らかにアメリカ政府が貧困層の人権を守る努力をしていない状態を見て、とうとう国連が2006年7月28日に非難声明を出したほどだった。(詳細はTeaching the Leveesから。)

 前にも書いたが、このように世界中で同じようなことが繰り返される状態を見て、知識人やジャーナリズムにいる多くの人間が訴えている。


 これはもはや「ミス」ではなく、実は緻密な計画に基づいたものでる。


(続く…)

*ここに書かれている意見は、完全に筆者個人のものであり、このブログやティーチャーズカレッジを代表するものではありません。

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