2011年12月2日金曜日

Occupy Wall Street 落ちぶれたアメリカンデモクラシー




アメリカ合衆国憲法で守られている筈の「言論の自由」。
ウィスコンシン州ではその自由をお金で買わなければならなくなる可能性が出てきた。

2010年の中間選挙で当選し、この春、公務員の組合団体交渉権剥奪法案を無理やり通し、同様の動きを他の州にも連鎖させたウィスコンシン州のスコット・ウォーカー州知事。来年の選挙でリコールされる可能性が高まっている彼が、また民衆の怒りを買っている。

Journal Sentinelの記事によると昨日(木曜日)ウォーカー州知事が明らかにした政策は、4人以上の市民が州保有の建物の中で何らかの活動を行う場合に特別許可の発行を求め、デモに関する警察の残業と清掃のコストさえもプロテスター達に負担させるというものだ。

デモによる警察のコストが急増しているのは最近ニュースで話題になっているため、こういう方法でデモを潰そうとするのは多くの人々が予想したところなのではないだろうか。ただ、現実となってみると、失望感と怒りが込みあがってくる。

平和的デモを警察の力で抑圧しようとしているのは権力者達の勝手だ。そのコストをデモ参加者たちに負担させようとするのは間違っている。

記事の中で、Marquette University法律大学院のEdward Fallone教授は、デモに生じる警察の残業と清掃のコストの市民負担に関して、国民の宗教と言論の自由を認めるアメリカ合衆国憲法修正第1条に値札を付けることはできない、と主張している。

『Occupy Wall Street のポテンシャル』でも書いたように、平和的デモを行っている老婦人やただ座っているだけの学生達にペッパースプレーを吹き付け、

Joshua Trujillo/seattlepi.com, via Associated Press

学生達を守ろうとした国を代表する詩人に暴力をふるう警察のニュースは、アメリカの国民を震撼させた。そして、自らがアメリカ屈指の大富豪である、NYのブルームバーグ市長は、NY市警のことを「個人的な軍隊」と呼ぶ。ユーモアのつもりで言ったのだろうが、その言葉は、彼ら自身 「99%」 の国民である警察官らを都合の良いように操る 「1%」 の人間を代表する姿勢であるように思えてならない。

そして今度は、憲法に守られている言論の自由を行使するにもお金が必要だと言う。アメリカの民主主義はここまで落ちぶれたか。アメリカを愛し、アメリカに大きな恩を感じているからこそ、僕の怒りは強い。

この春、もう一つのブログ、『アメリカ教育最前線』で2006年にアメリカを襲ったハリケーン・カトリーナに関する、『これがアメリカなの? ~日本への警告 2~』 という記事を書いた。以下は その抜粋だ。

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ニューオーリンズがハリケーン・カトリーナによって水没してから約半年後の2006年2月、メディアや民衆、上院・下院など、国のあらゆる側面から圧力を受けたブッシュ政権は、The White House Katrina Reportを公表し、その未曾有の被害は国の対応のまずさから起きたものであったことを認めた。


しかし、カトリーナ後、一週間経ってもまだ被災者が崩壊した家の屋根から救助を求め、避難所となったスーパードームの外では死体がそのまま放置されているテレビの映像には、「対応のまずさ」 だけでは理解できないものがあり、世界中を驚かせた。


CNNのレポーター、Sanjay Guptaは 「これがアメリカなの?」 と問い、ボストンの有力紙、Boston GlobeのDerrick Z. Jacksonも、


“Here’s the wealthiest nation in the world—gave a Third World response to a major catastrophe”
「世界で最も裕福な国が大災害に対して第三世界並みの対応をした」と酷評した。

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「これが自由の国アメリカなの?」

そして、

「これがアメリカンデモクラシーなの?」

と今一度問いたい。




こんなのは僕の愛するアメリカではない。



America is better than that.


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6 件のコメント:

  1. 残業手当を!! すごいこと考えますね。いつの時代の話なのか疑ってしまいます。日本では現在残業しても残業してないように見せかけて残業手当を全額出さない企業が多いと聞いています。もちろん公務員には残業手当なぞありませんが・・・。それでも黙々と働く日本人は、いったいなんでしょう。

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  2. OWSで、毎日毎日大量の警察官がでばっているのをみて、なんでこんなに警察官が必要なのか、まったく理解できません。24時間体制で、彼らのやっていることといえば、近くのマクドナルドでコーヒーを買って飲んで同僚とおしゃべりしているくらい。公務員の残業手当っていくらくらいでるか知ってますか? すごい金額です。 まったくなんの必要もないお金をどれだけ無駄遣いしているのか清算して国民に公表するべきです。資本主義の原理で動いているアメリカ社会なのだから、そういうことも資本主義倫理で考えて無駄遣いをしている経営者、この場合は出動命令を出している人だから市長でしょうか、にペナルティを課すべき。

    それにしても、スコット知事がまだリコールされていなかったとは。。。

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  3. この、モラルのslippery slopeの原因は、いったいなんなのか。ノブレスオブリッジって、アメリカ金融関係の裕福層にはないんでしょうか。もちろんお金持ちで、恵まれない人のために力を貸す人は多く存在するのですが。

    アメリカでたくみに利用されている、とわたしが感じる、キリスト教を装った考え方の一つ「持たざる者は悪←怠け者、神様に祝福されてない」まずはここから変えていかないとどうしようもないのではないかしら。なぜアメリカでこんなにも顕著?でも果たして変えるのは可能?

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  4. musapooさん、Keukmiさん、
     本当にアメリカの、企業の企業による企業のためのcorporatocracyは矛盾ばかりです。でも、今春のウィスコンシンの運動で合言葉になったような、"Show me what democracy looks like!" "THIS IS WHAT DEMOCRACY LOOKS LIKE!!"といった、市民が思い描く民主主義の在り方を提示することが、今のアメリカの「民主主義」がどれだけ本来の形を見失っているかというコントラストを浮き彫りにしているような気がします。

    mmさん、
     ノブレスオブリッジ、アメリカの富裕層にも存在する美徳だと僕は思っています。ただ、多くの人々が自分本位な形でしか責任を果たせていないのだと想います。ビル・ゲイツなども、教育に物凄いお金を寄付していますが、自分の教育観をエキスパート達に押し付けているため、その弊害は近年手のつけようがないところまで来ています。本人は自分のベストを尽くしているつもりでしょうが。OWSに関しても、1%の多くは、「バカだな。俺たちが儲けさせてやるから黙って見てろ」とでも思っているのではないでしょうか。Have a safe trip!!

    大裕

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  5. この記事を読んで、私も怒りというかかなりの危機感を感じます。ちょうどおととい授業でデューイーの「社会的コントロールと自由」を読んで、自由について学生達の意見を聞いたのですが、その答えに恐ろしさを感じていたところです。殆どの生徒が自由とは、「与えられた選択肢の中から一つを選ぶこと」と考えていて、しかも自分たちは自由だと思っている。。。。大人になるということは大人に指示されなくても彼らの思う通りに動けること(まさにgovernmentality)。私の生徒達はおそらく、このウィスコンシンの法案をみても、個人がお金を払ってデモをするという選択肢が与えられているんだから、、自由は侵害されていないと解釈するでしょう。
    いやーいったいどこからはじめたらいいのか。確かに、行政や企業のやっていることは自分本位で、民主主義の原理に反する行為なのですが、それを可能にしたのは、体制にプラスになるような自由の概念を叩き込んできた、教育の責任。あまりのショックに授業中なにも言えなくなってしまった。OWSのことを 「馬鹿だな」と思っている、あるいは自分とは全く関係がないと思っている国民も沢山いるというのがアメリカ民主主義の現状だと思います。なんとかしなきゃ。一つ一つのクラスが民主的コミュニティーを作ることにもっと力をいれないと、民主主義は本当に崩壊してしまうでしょう。ブッシュがそこまで考えていたのかどうかは疑問ですが、テスト中心の教育とコーポラシーの強化は偶然の一致ではないでしょう。教育の大切さをますます感じます。

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  6. Kaoruさん、
     人間をeconomic beingとしてしか見ていない新自由主義が、経済成長、そしてグローバルマーケットにおけるnational competenceのために教育を作り変えたのだから、当然と言えば当然の結果なのだろうね。残念ながらCorporatocratic StateにDemocratic educationを期待するのが無理な話なのかもね。冬休みにでも大いに話そうね。
                         大裕

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