2014年5月21日水曜日

失態だらけの校長公募制度について一言



昨日、Facebookでこんなニュースを目にした。

(毎日新聞 2014年5月21日)

「全国公募で民間から採用された大阪市立小学校の男性校長(51)がPTA会費を持ち出すなど、ずさんな現金管理をしたとして内部調査を受けていた問題で、市教委は20日、この校長を更迭する方針を固めた。山本晋次教育長はこの日の市議会で「校長が長期間、休んでいて、著しく校務に支障が出ている」と説明した。大阪市の民間人公募校長の更迭は2人目。」

民間からの公募校長...。

企業で実績を残した民間人を校長として迎え入れれば学校が良くなるだろうといった、いかにも新自由主義的な、シンプルで、短絡的な考えだ。

そんなんで教育が良くなると人々が思っているうちは、教育が良くなることはまずない。

これは、先日の投稿で書いた学校選択制の導入と同じで、教育原理を無視し、子どもを使った社会実験と言っていい。運悪くこのような校長の学校に入ってしまった子どもたちは、いったいどうなるのだろう。誰が後始末をするんだ?

私たちの子どもたちが日々学ぶ機関のトップに、なぜ子どもと教育のプロである「教育者」ではなく、「マネージャー」を入れたがるのか、理解に苦しむ。でもきっとそれは、教育を知らなくても、また子どものことを理解できなくても学校を運営できてしまう程、今の教育が貧弱化していることの裏返しなのだろう。

プロにしか務まらない学校を創ることに没頭することこそが、今の我々に求められていることなのではないのか。

いずれにせよ、民間人校長の公募は既に珍しくもなくなってきている。前回書いた、新人教員研修の塾へのアウトソーシングと同様、日本の公教育における新自由主義拡大が見て取れる。このような些細なところから、我々の感覚は徐々に麻痺して行くのだ。




記事には、以下のように、大阪市でこれまで起こった公募校長による不祥事の表が掲載されていた。



この件に関してはあまりフォローしていなかったので、こんな大問題になっていたとは知らなかった。この記事に関するツイッターを見たら、「またか」という感想が非常に多かったのが印象的だった。

同時に、一つ気になったことがある。

それは、人々のつぶやきの中に、校長公募制にこだわってきた橋下市長の責任を問う意見があまり見られなかったことだ。

冒頭に紹介した記事にはこう書いてある。

「大阪市の公募校長は、昨年春以降、セクハラや職場離脱、教職員とのトラブルで市教委に処分などを受けたケースや、着任から間がないのに自主退職をしたケースなど問題が相次いでいる。 (中略) 校長公募は元々、橋下徹市長(大阪維新の会代表)の公約でもあり、市は来年度に採用する公募校長の研修関連経費約2800万円を開会中の市議会に提案した補正予算案に計上。しかし野党会派の反発は強く、今回の更迭は議会審議に影響を与えそうだ。」

思えば、教育委員会制度改革を主張する中、教育委員会の「無責任体質」を批判し、責任の所在を明らかにすることを訴えた橋下氏。我々はもっと、教育を間違った方向に導いている政治家に対して責任を追求するべきではないのか。

ルクセンブルク大学のGert Biesta(2009)Education between Accountability and Responsibilityという論稿で、非常に興味深いことを言っている。

新自由主義教育改革において繁栄するアカウンタビリティーの文化は、「学校」と「市民」の関係を非政治的にし、「教育サービス提供者」と「教育消費者」の経済的な関係へと変えてしまうと言うのだ。

この新たな経済的な関係では、消費者となった我々は、支払う税金に見合う教育が提供されているかに関してしか口を出せず、「何を子どもたちに教えるべきか」とか「何を教育の目標とするのか」などという、教育の根幹に関わる政治的なことには口を出せなくなる。そうなれば、声を失った我々は、国家の描く教育のビジョンを受け入れざるを得なくなる。

これは先日、NY市の新自由主義教育改革に反対する集会で行ったスピーチでも言ったことだが、我々はまず、「教育市場」における「教育消費者」に格下げされることを拒むことからはじめなくてはいけない。

「市民」にこだわることだ。

新自由主義の期待に沿って、税金に見合う教育「成果」を教員や学校に求めるのではなく、民主主義社会を形成する「市民」として、より核心的なことを政治家たちに求めなくてはならないのだと思う。

教育の複雑さとしっかりと向き合うこと

社会のニーズだけでなく、子どものニーズにしっかりと耳を傾けること

子どもと教育のプロを各学校、各教室に配属できるよう努めること

そのために、資源を惜しまず、教員を魅力ある仕事にすること

彼らが教育の専門家として能力を発揮できるよう、できる限りのサポートを提供すること...。







2 件のコメント:

  1.  ホームページ校長公募を運営しているあつしです。
    まったく素晴らしい校長公募の批判的ご意見だと思います。
     私のサイトにはらせて貰ってよろしいでしょうか?
     また私のサイトに掲示板がありますので忌憚のないご意見をお待ちしております。

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  2. あつしさま、
    ご丁寧にありがとうございました。
    光栄です。どうぞよろしくお願い致します。
    Daiyu

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