晴天の四万十川
(四万十川ユースホステルのさっちゃんから)
「きれいだねえ。ちゃんと覚えておくんだよ。」
子どもと美しい自然を眺める時、いつも同じ言葉が口から出てくる。そんな言葉が出てくるのは、自分の中にどうしても拭い去れない不安があるからだ。
この美しい光景をこの子たちは将来目にすることができるのだろうか。
くだらないことで悩む自分のちっぽけさを、透き通る空の青さに慰めてもらえるのだろうか。
山を悠々と旋回する鳶の飛行に、駆け足で生きる自分のせわしない生活を戒めてもらえるのだろうか。
もし自分が自然から受けてきた恩恵が、この子たちの子どもたちには残されていなかったらと思うと、切なくて仕方ない。
『再誕生』
(by さっちゃん)
先日小野寺愛さんが『私の夢』の中で紹介してくれたセヴァン・スズキ (Severn Suzuki) のスピーチをご覧になっただろうか?もし、まだの人がいたら、まずご覧になって頂きたい。1992年、ブラジルのリオで行われた世界環境サミットで行なわれたという伝説のスピーチだ。世界中のリーダーたちが一堂に会するその堅苦しい雰囲気に、臆することなく自分の怒りをぶつける12歳のセヴァン・スズキに僕は度肝を抜かれた。
おそらく、度肝を抜かれたのは壇上に登る12歳の少女を拍手で迎え入れた世界各国の要人たちも同じだろう。
なんとセヴァンは、冒頭の挨拶からいきなりその場にいた全員を説教し始めたのだ。
“I came to tell you
that you adults must change your ways.”
that you adults must change your ways.”
「あなたたち大人は生き方を変えなければいけない。
そのことを伝えるために私は来ました。」
そのことを伝えるために私は来ました。」
環境サミット史上、前代未聞の話だ。カメラに映る各国の代表の中には、あっけにとられている人も少なくない。
「ちょっと待て、私を一緒にするな」 と感じた参加者も少なくないのではないだろうか。でも、セヴァンの攻撃は容赦なく続く。 「あなたたち大人は…」
聴いているうちに、セヴァンはただナイーヴに大人全員をいっしょくたに非難しているわけではないことが明らかになってくる。
“In my anger, I’m not blind.”
「私は怒りの中で盲目になってはいません。」
彼女は、環境問題を何とかしたいと心配している人がいることも分かっているのだ。でも、隠すことなく自分の怒りをさらけ出すセヴァンはこう言いたげだ。
もし本当に心配しているのなら何故怒らない?
自分のスーツと肩書に隠れ、座って議論している場合じゃないでしょ。
そうして12歳のあまりにもストレートな言葉は、世界中のリーダーたちの肩書を一枚一枚剥がしていく。
国を代表する前にあなたたちは一人の人間であり、親であり、誰かの子どもだ。
そして私たちはあなた方の子どもだ。
今あなたたちが決めているのは、他でもない、私たちの未来だ。
17年前のこのスピーチ、現代に生きる我々にとってどんな意味があるのだろう。もちろん僕はあの場にいなかったし、いたとしても未成年だ。でも、彼女が話しかける“You adults”の中には、間違いなく2009年の自分も、今年29歳になったセヴァン・スズキ自身も含まれている。
彼女はこう言った。
“I’m here to speak for all generations to come.”
「私はこれから来るであろう全ての世代の代表として話すためにここにいます。」
彼女の言葉は我々に気付かせてくれる。
「環境保護」という名目で我々が取り組んでいるのは子どもの未来に他ならない。
だからこそ、それは我々にとって人間的、個人的な問題でなくてはならないし、真の原動力は、理論ではなく感情でなくてはならない。
地球を讃え、子どもを愛する気持ちこそが、バラバラになった人々を一つにしてくれる。
2009年に生きる僕たちにとって、「あなたたち大人は!」 と非難した時代はもう終わった。今度は自分たちが 「私たち大人が!」 と胸を張って言える時代を築く番なのではないだろうか。
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セヴァン・スズキのその後
彼女のその後が気になった人もいるのではないかと思う。彼女と交流のある小野寺愛さんが教えてくれたことを、この場を使ってシェアしたい。
セヴァンのスピーチは、小野寺愛さんの師匠でもあり、セヴァンのお父さんのDavid Suzuki(カナダでは国民的大ヒットの自然科学番組のナビゲーター)と古くからの友人でもある辻信一さんの協力で、『あなたが世界を変える日』(学陽書房)という一冊の本になり、日本にも講演ツアーに来たそうだ。
今、彼女は一人の妻、そしてこの夏産まれた子どもの母親として、幼少期から毎年夏を過ごしたアメリカ先住民ハイダ民族の村で暮らしているという。愛さんいわく、12歳のあの日以降も、「一切錆びることなく、むしろどんどん素敵な、優しさをたたえた女性になっている」そうだ。
朝靄の四万十川
(by さっちゃん)
セヴァン裏話、続編です。
返信削除「あれだけのスピーチ、12歳の女の子が考えるなんて本当にすごい。カナダで準備してから行ったの?」と聞いたら、「実はあれはね、会場にむかうタクシーの中で考えたの。みんなで言いたいことをノートに書いて、書いて、書いて、ギリギリまで順番を並べ替えたりして」と話していました。
カナダに住んでいた12歳のセヴァンは、世界で初めての国連環境会議の開催にワクワクすると同時に、憤慨してもいました。「子どもの未来について話し合う場なのに、子どもが招待されていないなんておかしい!」と考えたセヴァンたちは、自分たちでお金を集めて、リオまで飛ぶことにした。そして、大人たちのNGOにまじって、会場外に自分たちのブースを出展しました。でもそれじゃあリーダーたちに自分たちの声が伝わらないと考えて、毎日、「自分たちを本会議場に招待してほしい」と本会議場に入っていく大人たちに向けてロビイング(!)したのです。それが功を奏して、最終日になって「あなたたちの声が聞きたい」と受け入れられ、突然スピーチできる運びになった。
セヴァンの環境活動の原点は、8歳のときに家族で訪れたアマゾンの地。環境活動家だった両親は、アマゾンのダム建設反対の運動でカヤポという先住民の人々と親しくなっていて、彼らの村に遊びに行ったのだそうです。裸の体にたくさんの模様を描いたあたたかい人々に受け入れられ、大興奮したセヴァン。弓矢で魚を捕まえる方法や、カメが卵を隠す場所のみつけかたや、昼ごはんのパパイヤをナタで採るやりかた、ピラニアの釣り方などを教わり、カヤポの人々が何千年と生きてきたのと同じようにしてセヴァンたちも滞在期間を過ごしたそうです。ブラジルのアマゾンと恋に落ちたセヴァンは「大きくなったら生物学を学ぼう」と心に決めたといいます。その翌年、5年生になったセヴァンはさっそく友達を誘って環境NGOを立ち上げました。
・・・子どもにとって、原体験がどれだけ大切かを思い知らされるようなエピソードです。はっと息をのむような美しい景色や、まったく新しい発見に出会うとき、子どもたちは大人の何十倍もすごい感受性でそれを体験しています。
それじゃあ、ひとりの大人として「できること」は何か。いろいろあります。マイはしやマイバッグも大切だけど、それだけじゃあまりに情けない。まずは、この世界がどれだけ素晴らしいかということを子どもと共有できる大人でありたい。「自分は子どもたちにどんな世界を見せることができるか」ということをすべての大人が真剣に考えるとき、きっと「環境問題」に終止符が打たれるんじゃないかと思います。