2011年8月23日火曜日

したたかに、逞しく ~ 丸 4 ~


 何年か振りに再会した丸は、22歳にして大手マッサージチェーン店の店長をしていた。その晩は、小関先生の取り計らいで、飲みに行く前に彼女に足のマッサージをしてもらうことになっていた。



 入ってすぐのカウンターの所に3人ほどいて、そのうちの一人が丸だった。



    「7時から店長使命で予約を入れてあるんですけど。」



 僕がそう言うと、他のスタッフの手前、恥ずかしそうに 「お久しぶりです」 と会釈をし、「担任の先生です」 と仲間に僕のことを紹介した。職業柄、丸はおしとやかになっていた。…というか、そう振舞っていた。



 その時店には5人くらいのスタッフがいたのだろうか。丸よりも年上と思われる女性も多かった。



 僕がイスに座って待っていると間もなく丸が来て、普通のお客様と接するかのように、とても丁寧な応対をしてくれた。幾つか選ぶものがあるらしかったが、僕は、全て任せると丸に伝えた。



 マッサージの間中、僕は丸の仕事についていろいろな質問をした。



 彼女が始めたのはそんなに前のことではないそうだ。ただ、始めるとすぐに指名が絶えなくなり、半年そこらで店長に任命されたという。そして、今では指名件数が全国の従業員中5位だそうだ。



 さすが小関先生の愛弟子。小関先生の師匠である奥村先生から、話術に関して 「免許皆伝」 をもらっただけはある。施術ももちろん上手いが、誰とでも合わせて相手を楽しませられる彼女と会話したいために通う客も少なくないのだろう。









 丸が、一つ印象深い話をしてくれた。先日のこと、店に入って来て間もない若い子が、客の男性にメールアドレスを訊かれてショックを受けたと丸に泣きついてきたそうだ。



 「私をそんな対象として見ていたなんて。私はそんなためにマッサージ師になったんじゃありません!!」



そう主張する彼女に丸は言ったそうだ。



 「あんたね、だったら施術だけで客があんたの所に通うだけの腕があるの?第一お金を払ってまで会いたいと思われるなんて、女として光栄なことじゃない!」



さすが小関先生の教え子。したたかで、逞しい。



小関先生の言う、「生きる力」 を目の前で見せてもらった気がした。





(続く…)



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