2011年8月25日木曜日

たった一言 ~ 丸 9 ~

学校では、小関先生がいたし、寂しいとは思わなかったが、一人ぼっちということは丸にとって紛れもない事実だった。



僕は今更ながら自分を恥ずかしく思った。



「丸にもっとこうして欲しい」 という担任としての自分のニーズはあっても、14歳の丸のニーズについては考えたこともなかった。



ただ、たとえ考えたとしても、当時の僕に彼女のニーズに応える力が無かったことを、丸は見抜いていた。



丸は、自分にお父さんがいないことを、人には言わないようにしていたそうだ。



「だって、そこで同情でもされたら、私、本当に可哀想な子になっちゃうじゃないですか。」



だから僕にも言わなかったのだと、彼女は正直に教えてくれた。



逆に、丸がいつから小関先生のことを慕うようになったかというと、一年生の時にその秘密を打ち明けた時だったそうだ。きっと、中一の彼女なりに、何か小関先生に感じるところがあったのだろう。






ちなみに、小関先生自身もお父さんのいない家庭で育ち、丸がそのことを知ったのはつい最近のことだ。


ある日、お父さんのことを訊かれた彼女は、思い切って言ったそうだ。



    「私、お父さんいないんです。」



でも大丈夫です、との内容を伝える彼女を見て小関先生は、ただ笑って「オーケー!!」 と答えたそうだ。小関先生を丸が信頼した瞬間だった。



    「己をもって和とする」



小関先生の言葉を思い出した。



4持っている子には教員が6を出す。代わりに9持っている子には、教員は1しか出さなくて良い。どんな時も、生徒の備え持った力を見極めて、教員は足りない分だけを出せばよい。



ただ、今回学ばされたのは、どれだけ生徒が力を持っていても、教員側の提示分が決して0にはならないということ。どのような意図をもって、己を介入するか。時にそれは、「オーケー!!」 というたった一言だったりする。



その一言すら与えられなかった自分が心から悔やまれた。


(続く…)

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