2010年6月17日木曜日

人と人とを紡ぐ時代に

 出会いなんてどこにでも転がっているものだ。
ただ、 「すれ違い」 を出会いと見るか見ないかの問題だと思う。



思えば、今までも不思議な出会いがたくさんあった。



 去年の冬休みに泊めてもらったピンク夫妻(Mr. & Mrs. Pink)は、元はといえば、僕が通ったアメリカの高校のキッチンでバイトをしていた地元の大学生、アンの両親だ。アンは元気を絵に描いたような女の子で、笑顔がとてもすてきな子だった。いつも腹をすかせていた僕が何度も何度もおかわりに行くうちに仲良くなった。2年くらいが経ち、彼女が急にいなくなったのでキッチンの他のスタッフに訊いたら、急に癌に侵され、大学も休学してNYの実家に帰ったという。アンが亡くなるまでの2年間、何度も手紙や電話でのやり取りをしているうちに、ご両親とも仲良くなった。そのピンク夫妻とは、その後も毎年一回、アンの命日に電話で話す関係を続けていた。そして、去年、16年越しの関係を経て、初めてお会いすることができた。僕が妻と子どもを連れて来たことをひどく喜んでくれ、自分の家族のように受け入れてくれた。一つ、大きな約束を果たしたような気がした。


ピンク夫妻と


 このブログに投稿してくれた四万十川のさっちゃんも、元はといえば僕が四国を一人旅した時にお世話になった四万十川ユースホステルのオーナーさんだ。導かれるように四万十川に辿り着き、1泊の予定が3泊した。さっちゃんは予知夢をみたり、自分の前世を知っていたり、料理の仕上げに必ず念力をかけたり、とにかく不思議な能力を持っている人で(旦那さんいわく「宇宙人」)、最初から心を完全に解き放って語ることができた。その後も電話をしたり、手紙を書いたり。実際に会ったのはもしかしたら10回にも満たないかもしれない。でも、今でも自分が夢を追い続けていられるのは彼女の言葉が僕に魔法をかけているからでもある。「大丈夫。大裕ならきっとできるよ。」



 時折コメントをくれる、Teachers Collegeの大先輩のかおるさんとも、実は日本にいた時からの古い友人だ。もう13年の友情になる。僕が大学を卒業し、一時帰国中、雑誌 『教育』 読者の会というのに参加していたことがある。そこで、 「君みたいにアメリカの大学で教育学を学び、先月号に記事を書いた女性がいるよ」 と聞き、すぐに電話してその日のうちに会うことになったのだ。すぐに意気投合、時間を忘れて語り合った。僕が今コロンビアにいるのはかおるさんがいたことも大きい。一緒に学べたらいいねとは言っていたが、まさか同時期に同じ場所で学べるとは思わなかった。NYの我が家にも何回も泊りに来て、娘の愛音にとってはGod Motherのような存在だ。そんな彼女も今年晴れて卒業。嬉しくもあり、寂しくもある。


かおるさんと愛音


 今度詳しく書こうと思っているケヴィンや佐々山さんなどは、図書館で顔を合わせているうちに仲良くなった人たちだ。人の縁とは不思議なものだ。僕は、最終的に世の中を変えるのは、お金や理論など形あるものではなく、人と人との繋がりだと思う。



 ここ最近も、それを痛感させる出来事があった。



 『人生の勝者となること』 にコメントをくれたhoshinoさんそしてmasaさんと飲みに行ったのだ。元はといえばhoshinoさんは僕と同じTeachers Collegeの先輩、masaさんはフルブライト同期生だ。夕方5時に学校近くのバーで会い、軽いhappy hourのはずが夜中の12時頃まで語り合った。二人とも、とにかく物知りで、政治や経済の話など、何も知らない自分に優しく丁寧に教えてくれた。何よりも嬉しかったのは、二人とも日本のことを真剣に考えていて、教育に対する熱い想いをシェアできたことだ。最後にBroadwayの焼き鳥屋で食べたラーメンは、妙に美味く、日本を恋しくさせた。



 その二日後、今度はhoshinoさんから 「面白い男がいる」 と言われ、コロンビアで物理学のドクターをやっている竹越さんという人と会うことになった。気持ちの良い日曜日の朝9時、まだ静かなキャンパスの広場を見下ろす階段に座り、僕たちはコーヒーをすすった。



 世の中には必ず、国の言語とは関係なしに同じ言語を持つ人間がいるものだ。そんな人とは何の駆け引きも説明も必要ない。心をワイドオープンにして、ただ流れに身を委ねればいい。



   「そう、そうなんだよね!!」

   「ああ、それ良くわかります。」



 そんな感じで次から次へと話が発展するのだ。この日も、短時間で実に様々なことについて話した。自分たちのバックグランド、今やっている研究、科学と芸術の類似性、日本の教育、日本の若者、政治、人生の師…。久しぶりに時間が止まるのを感じた。







 博士課程2年目も終わり、そろそろ博士論文の方向性もその後の進路も真剣に考えていかなければならない。だが正直なところ、今はまだ確信の持てる方向性は見えてない。将来どんなポジションに身を置けば、自分の良さというものを最大限に生かして恩返しができるのか…。ずっと悩み続けている。



 ただ、これだけははっきりしている。自分の仕事は人と人とを繋ぐこと。そして、そのためには自分自身が人間の良さを信じ、多くの人と繋がっていきたいと思う。



以前 『Something Beautiful ~花~』 で紹介した、中孝介の 『花』 にこんな一節がある。





    人と人 また 人と人

    紡ぐ時代に身をまかせ

    それぞれの実が 撓わなればと





 たとえ今は互いに違う方向を向いていても、いつかどこかでお互いの道がクロスする時が来る。そう信じて、今この瞬間に精いっぱいの花を咲かせるのみ。

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