2009年8月9日日曜日

納得の一年

      コロンビア大学のメインキャンパス


 時間がある夏休み中になるべく更新しておこうと思う。

 博士課程一年目を終えた今、この一年を振り返ってみたい。『最初に…』でも書いたが、10年ぶりの留学は、勉強に対する姿勢そのものが違った。約7年間務めさせて頂いた教員の仕事を辞め、将来の保障も何もないまま渡米した昨年、心に決めたスローガンは、「失うものは何もない」だった。

 このメンタリティーが功を奏して、最初の授業からガンガン発言、質問することができた。

 間違えを恐れず、見当違いなことを言って笑われても構わないと思っていた。だから、教授が言ったことで分からない時には、「分からない」と言えたし、授業中のディスカッションが、自分の考えていることとは反対の方向に流れていた時には、「でも、…という考え方もあるんじゃないの?」と異議を唱えることもできた。大事なのは、人にどう思われるかではなく、自分がその授業から何を学べるかだと思った。

 スタンフォード時代の自分と比べて、この点が根本的に異なっていた。あの時は学位を取ること、良い成績を取ることしか考えていなかったので、体力的にはさほどキツくなかったが、精神的には比べ物にならない程辛かったように感じる。今は、自分が学ぶこと自体に意味を見出しながら勉強できているので、成績という狭い枠にとらわれることなく、のびのびと学べている。

 これは自分のお金に対する価値観と同じだ。お金を稼ぐことを目的として働くのは非常にキツいことだと思う。自分の使命を懸命に追及した結果、お金が付いてくるのだと思うようにしている。

 教員になってから始めたマラソンも同じだ。ゴールだけを考えて走ると、一歩一歩が見えなくなり、それらの意味がなくなってしまう。逆に、次の一歩を一生懸命に踏み出し続けた結果が、好タイムにつながるのだと信じている。
 

 今度じっくり書こうと思うが、自分には二人の先生がいる。人生を変えてくれた恩師だ。そのうちの一人は、教員になってから出会った先輩だ。その先生に褒められたことはほとんどない。その数少ない経験の中、マラソンで褒めて頂いたことがある。

 人生初のフルマラソンは、景色や給水所のクリームパンを楽しみながら走り、3:07と思わぬ好タイム。

 2回目は3時間の大台を切れると過信。最終10キロは水分補給の時間を惜しんで激走した結果、ゴール前で意識を失い、無意識のままゴールした(らしい…)。気づいた時にはゴール横のプレハブで点滴をうっていた。記録は3:08。皮肉なものだ。

 その翌年のことだった。とにかく楽しみながら、一歩一歩一生懸命走ろうと思い臨んだレース。記録は3:00と16秒だった。

 後からゴールした先生がその結果を見て、信じられないというように、「もったいねー!!」 と言った。

 それに対して、「いやー、しょうがないっすよ。あの16秒はどう考えても切れなかったから。」 という言葉が自然と自分の口から出た。

 やせ我慢でも何でもなかった。3時間のうちのたった16秒と思われるかもしれないが、レース中、一瞬でも手を抜いた記憶がなかったので、どこをどうすれば良かったのかも分からなかったのだ。残ったのは今回のレースに対する未練ではなく、次のレースに向ける闘志と確かな自信だった。

 先生に褒めて頂いたのは、やりきったという清々しさに浸る自分の姿だった。

 
 それ以来、何においても、「やりきること」 が自分の勝負における目標となっている。おかげさまで、この一年に対しても、やりきったと言える自分がいることを嬉しく思う。

 勿論、もっと上手くできる所、改善の余地がある所は数多くあった。ただ、手を抜いたと感じる所は思い浮かばないので、仕方ないかと割り切れる。それが次年度の課題であり、自分の伸びしろだと思っている。

 結果はどうだったのか。成績も良く、19人で始まったプログラムだったが(うち4人は途中でドロップアウト)、その中でただ一人、来年のTA(教授のアシスタント)に選んでもらえたことが最大の成果だろう。

 自分より成績が良い人はいたはずだ。だから、授業で誰よりも多く発言するアグレッシブな姿勢が評価されたのだと思う。

 良かった。これでこの夏も教え子に胸を張って報告できる。

3 件のコメント:

  1. 経験に裏打ちされた学び

     かなりのピッチで更新されていて、びっくり。
     伝えたい考えや思いがたくさんあるってことだね。

     一度仕事をするという経験をしてからの学びは、それまでの学びへの姿勢とは比べものにならないよね。とても共感。私もOLを辞めて、院に入った時、あちこちの大学院の授業に教授に直談判をして聴講させてもらって、貪欲だった。

     ~が、今は、その元気もなく…。
     手を抜いた時間の過ごし方が、この1・2年の結果に現れていて、せっかく与えられたチャンスをつかむことができずに…。やっぱりというか、当然というか、ちゃんと努力した人だけが、与えられる場所が準備されてるんだなぁ~と。大裕さんのブログを読みながら、自分の怠惰な在り方を、大いに反省。今の自分は、自信をもって学生の前にたっていると言えないな…と。
    ネガティブな内容になってしまいました…。
    いかんいかん。

    AKI

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  2. あっこさんが怠惰だったら、みんな怠惰になってしまうなぁ。俺も反省する心を忘れないようにしよう。 大裕

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  3. 初のコメントです!!
    ブログを通して久々に大裕の考えを聞けて嬉しい限り。大学の時に授業を受けていた時を思い出します。

    夢に近づかなくちゃ、経験積まなくちゃ、仕事で認められなくちゃと急ぐ中で、大裕に教えてもらった事を、忘れてしまっていたなとブログを見て思いました・・。。反省・・。。

    人の目でなく自分が何を学べるかを意識する事、挑戦する事、謙虚になる事、昔は必ず思い起こしながら仕事をしていたのにどうしていつの間にか頭の片隅にこの言葉達をおいてチラッと見るだけになってしまったのか・・

    計画していたキャリアプランが、思わぬ出来事で見事に崩れてしまいましたが、「失うものは何もない」というメンタリティーでもう一度、自分自身や周りを見つめて新たな気持ちで頑張ります(^^!

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