1.年金と子ども
この夏、小関先生がこんなことを言った。
「日本はテレビや新聞なんかで年金のことばかり言っている。大人が年金年金と言っているような社会では子どもは育たない。」
ドイツから帰って来たばかりの僕にとって、この言葉はとても響いた。確かに多くの人々にとって、年金は死活問題だ。でも、年金問題がクローズアップされる度に、我々大人の意識は子どもから離れていっていないだろうか。これを毎日同じように聞かされている子どもたちはどう思っているのだろう。どうせ俺たちが払うんだろ、とひねくれてはいかないだろうか。 こうして、人が育つ社会の在り方について真剣に考え始めるようになった。
2.子どもを育てる大人の姿勢
思い出すことがある。教員時代のことだ。毎年夏の総体の時期になるときまって、管理職と小関先生を応援する先生方の間でこんなやり取りがあった。
「教頭先生、剣道部の関東大会出場にあたって横断幕くらい作ったらどうですか。」
「そんな金ねぇよ!」
こんなことが何回繰り返されただろうか。全国制覇した今年はどうだったのだろう、とふと思い、小関先生に訊いてみた。やはり。全国大会出場が決まった時どころか、日本の頂点に立って初めて平成21年度全国中学校剣道大会優勝(写真は『不登校から日本一』に掲載)の横断幕、そして、「ついで」のように関東大会優勝の横断幕が校舎にかけられた。関東大会で個人優勝した選手は2年生の別の選手である。この子は、先輩が全国優勝しなければ忘れられていたのだろうか、と怖くなる。他にもあるのだ。実は今年、小関先生が率いる剣道部は、個人選手の活躍だけでなく、男女ともに団体の部でも関東大会出場を果たしているのだ。この成果は、未だに横断幕にもされていないそうだ。がんばっている子どもがいたらそれを褒めて励まし、成果を出した子どもがいたら、その成長を認め、讃える。ごく当たり前のことだと思う。
学校に自由に使えるお金がない、というのも事実なのだと思う。不幸なことに教育費はどこでも削減の道を突き進んでいる。ただ、管理職を務める方々には、それなりの器の大きさをもって欲しいと思うのも正直なところだ。以前、とても気前の良い教頭がいたことがある。横断幕はもちろん、学年の職員で飲みに行く時も、自身のポケットからお金を出してくれた。こちらが遠慮すると、「いいんだよ。管理職手当っていうのはそういうことのためにあるんだから」と言ってくれた。最近は管理職手当も減らされているのだと思う。その状況で、なおかつお金を出そうとしてくれる人がいたら、周りの部下たちはどう思うだろうか。その人に気を遣い、その人のためにがんばろうと思うのではないだろうか。ここで問題にしているのはお金と言うよりも、人としての姿勢だ。結果的に横断幕のお金が都合つかなくても構わない。もっと大事なのは子どものために懸命に努力する大人の姿勢なのだ。「わかった。何とかする。」その一言で子どもは育つ。
3.米百俵
このようなことを考えていると、頭に浮かぶ話がある。長岡藩に伝わる『米百俵』の話だ。聞いたことのある人も多いのではないだろうか。長岡市のホームページには、『米百俵の精神』が次のように書かれている。「明治初め、戊辰戦争に敗れ困窮を極める長岡藩に、支藩の三根山藩(新潟市巻)から見舞いの百俵の米が送られました。大参事・小林虎三郎は、「食えないからこそ教育を」とその米を売り、学校建設の資金に充てたてたことに由来。」この話は山本有三の戯曲『米百俵』で広く世に知られるようになったそうだ。その中でこんなシーンがある。米百俵が送られ、飢えていた藩士たちはたいそう喜んだ。しかし、そのお米を皆で分けるのではなく、国漢学校の資金にしようと言われ、藩士たちは虎三郎に刀を抜いて詰め寄った。それに対し、佐久間象山の門下生であり、当時は藩の大参事を務めていた虎三郎は、こう言う。
「この米を、一日か二日で食いつぶしてあとに何が残るのだ。国がおこるのも、ほろびるのも、まちが栄えるのも、衰えるのも、ことごとく人にある。……この百俵の米をもとにして、学校をたてたいのだ。この百俵は、今でこそただの百俵だが、後年には一万俵になるか、百万俵になるか、はかりしれないものがある。いや、米だわらなどでは、見つもれない尊いものになるのだ。その日ぐらしでは、長岡は立ちあがれないぞ。あたらしい日本はうまれないぞ。……」 (http://www.city.nagaoka.niigata.jp/kurashi/bunka/komehyaku/kome100.html)
こうして建設された国漢学校には、藩士の子弟だけでなく町民や農民の子どもさえも入学を許可されたそうだ。そして後年、東京帝国大学総長の小野塚喜平次、解剖学の医学博士の小金井良精、司法大臣の小原直、海軍の山本五十六元帥など、ここから新生日本を背負う多くの人物が輩出されたそうだ。米百俵の精神に誇りを持って人々に伝えている長岡市のホームページを是非訪れて欲しいと思う。
4.親の背中を見て育つ剣道部の子どもたち
小関先生の剣道部の生徒の親たちが子どもの教育にかける熱意も、米百俵に通ずるものがある。今年の夏、日本に一時帰国した時に剣道部の県大会の応援に駆けつけた時のことだ。開催地は大網で、帰りは剣道部の親御さんたちが僕を学校の近くまで車で送ってくれることになった。その車の中、お母さん方の話題は自分たちのパートの話に及んだ。訊いてみることにした。剣道部ではどのくらいの親が共働きをしているのか。驚いた。ほぼ全員だと言う。共働きでやっと子どもの剣道を続けさせることができるそうだ。週末くらいは疲れた体を休ませたいはずなのに、毎週末のように剣道部の遠征に車出しをする。皆、「可能性無限」と書かれた本校剣道部のTシャツを着て、子どもたちに精一杯の声援を送る。剣道部の子たちはちゃんとわかっている。自分のために弱音も吐かずに働いている親の背中を見て、感謝と責任を感じながら、しっかり育っている。
そうだよねえ。「たいへんなときだからこそ、子どもたちに教育を」という発想と勇気、本来は大人みんなで共有していたいものだよね。それは、時代が変わっても変わらず大切にしたい価値観だと思います。
返信削除フィンランドでは、90年代に「国家倒産の危機」と言われる大不況に直面したとき、当時28歳だった新進気鋭のリーダーを教育大臣に登用して、思い切った教育投資と改革をした結果、大成功!PISAの学力到達度調査では2回連続第1位をとったり、子どもたちのクリエイティビティーが育ち、世界の「NOKIA」が生まれて経済も完全に回復したり。子どもの「育ち」を大切にするこの国は、きっとこれからも魅力を増していく国になるのでしょう。
フィンランドのこと、他の北欧の国々のこと、詳しくは、ブログに書いたので見てみてね〜。(▼「フィンランドで北欧デザイン満喫」: http://ameblo.jp/sunday0106/entry-10336479059.html)