2009年9月11日金曜日

約束のバトン

   最後の授業 - Dr. Sobolを囲んで(椅子に座っているのがSobol教授)


1.発信すること
 今年の自分の課題、それは発信することだ。このブログももちろんそうだが、その他でも積極的に発信しようと、いろいろな所に顔を出している。新入生のためのオリエンテーションのボランティア、キャンパスツアーガイド、自分のような留学生のアドバイザー、教授のティーチングアシスタント…、昨日は将来のフルブライターへのビデオメッセージの収録に出かけた。

 そう考えると、去年の自分とのメンタリティーの違いに驚かされる。『納得の一年』という内容で初めに書いたが、去年の自分のキャパシティーでは、自分自身が吸収することで精一杯で、自分の学びを発信することまではできなかった。それを今、一生懸命しているところだ。


2.人間は一人だけ自由になれるのか?
 前回、『Responsibility』というタイトルのエッセイを掲載したが、僕の中では「学び」というものは「責任」と深くつながっている。学んだ者には教える責任があり、そうして恩返しすることにより一つのサイクルが完結し、また新たなサイクルが始まるのだと思っている。だからこそ、たくさん学んだ者、多くの出会いや感動に恵まれた者には教えて欲しいと思う。それは必ずしも教員になるということではなく、分かち合うということだ。

 学びは人のために生きて初めて意味を持つ。以前にも紹介したブラジルの教育哲学者Paulo FreireはPedagogy of the Oppressed(邦題:『被抑圧者の教育』)という本の中で次のように言っている。

   全ての人々を解き放たずして自分を解き放つことはできない。

これは『自由について』でも紹介したMaxine Greeneのbreaking free(システムから自分だけ逃れること)とbreaking through(システムを打ち破ること)の違いに相違ない。この二人の賢人は問う。人間は一人だけ自由になれるのか?


3.二人の巨人
 去年の秋、今年の春に一つずつ、心震える授業を受けた。それらの授業を教えたのはThomas Sobol とMaxine Greeneというアメリカ教育界において「巨人」とされる二人の教授だ。Maxineについては前述の通り。Sobol先生は学者でありながら、ニューヨーク州の教育長を何年にも渡って務めた政治家でもある。Sobol先生は77歳。Maxineにいたっては91歳である。

 彼らの授業は、いつも儀式のような雰囲気の中で始まった。時間になると、付き添いの人に連れられ、Sobol先生は車いす、Maxineは歩行補助の器具に捕まりながら登場する。生徒たちが静かに見守る中、声を出すことに支障のあるSobol先生は20人程度の生徒たちに声を届けるために胸にマイクを付け、Maxineはいつもの電動イスに腰をかけ、角度を調整する。

 彼らが万全の体調でないことは生徒誰もが知っていたし、その二人の教授が次の世代を育てることを使命とし、我々こそが次の世代なのだと、身が引き締まる想いがしていた。授業が始まると、二人の巨人が発する一言ひとことには彼らが生きてきた人生の重みがあった。全ての生徒が先生の話を食らいつくように聴く、あんな授業はかつて経験したことがなかった。しかし、言葉よりも重かったのは、我々の可能性を信じてやまない二人の純粋さだった。

   あなたたちが世界をより愛しやすい場所に変えるのだ

Freireの願いに重なった二人のメッセージに、彼らによって引き継がれてきた約束のバトンを渡された想いがした。

1 件のコメント:

  1. 政権公約(責任)

     日本では政権がかわって、民主党からは教員養成についても新たな公約が出されました。問題となっている免許更新制度を廃止、教員養成を6年(修士)、実習1年など…。でもどのような理念をもって法律を変えようとしているのか、何を目指そうとしているのか…。フィンランド方式に近いこの方法が、日本になぜ必要で、実施後どのような未来が見えるのか、精査したとは思えないし…。(そもそも国の規模や人口、財政も違いすぎるて、それを踏まえているのだろうか?) 
     どの国の子どもも、子どもの姿は、世界の未来。時代とともに変わらなければならない制度や法律と、安易に時代に流されず、流行だけでコロコロ変えてはいけないことを、ちゃんと政策立案者は、世の中をよくみて欲しいなぁ~と。
     人を育てるには、多くの時間と人が必要なのに、目に見える一元的な結果に頼り、すぐに成果を期待し、結果が自分の思い通りでないと満足をしない世評が蔓延していることに、ザラザラした気分に…。
     新しい政権が、どこを向いているのかは、相変わらず曖昧で、不安要素はたくさん。教育について、政治家がどれだけ”責任”をもって公約を果たすのか? 
     ~なんだか久しぶりに登場させてもらって、トピックにあった”責任”という言葉から、ぶつぶつとつぶやいてみました。

    AKI

    返信削除